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アルミニウム青銅に対する熱処理効果

  新居浜工業高等専門学校

1. 緒 言
 鋳造用銅合金には主として,スズ(Sn)青銅(Cu-Sn系),黄銅(Cu-Zn系),アルミニウム(Al)青銅(Cu-Al系)が用いられている.Cu-Sn系は複雑な鋳物を造りやすいが,凝固温度範囲が広いため鋳物に種々の欠陥が出やすい.Cu-Zn系は凝固温度範囲が狭く健全な鋳物を造りやすく,安価で,熱伝導率も高いが耐食性が低い.Cu-Al系は耐摩耗性,耐熱性,耐食性,摺動性に優れている.Cu-Al系はJISではAl青銅第一種〜第四種(CAC701〜704:旧AlBC1〜4)の4種類が規格化されており,特に高い強さと耐食性,耐摩耗性を必要とする場合にはAl青銅第三種(CAC703)が使われる.  これまで製鉄用圧延ロールのライナーとして高力黄銅(旧HBsC3: CAC303)が使用されてきた.重量物に対するライナーに鉄鋼よりも軟質材料の銅合金を使用するのは,鉄基合金が焼付を起こすのに対して,銅合金は摺動特性に優れ焼付が生じないためである.しかしCAC303のライナーとしての寿命は3ヶ月程度であった.ライナーの材質を鋳放しのCAC703系合金(DZ合金)に変えたところ,現在までのところ1年以上の使用に耐えている.この優れた摺動特性に加えCu-Al2元系合金は838K,9.0〜15.6mass%Alの範囲でβ→α+γ2の共析変態が知られている.このため10mass%程度のAlを含有するCAC703は熱処理による機械的性質の向上が期待できる.そこで本研究では,より高性能高寿命のライナーとしてはもとよりチタン等の難加工性材料の金型材としての用途を視野に入れDZ合金の機械的性質に対する熱処理の効果を検討した。

2. 試料及び実験方法
 Table 1にCAC703,並びにDZ合金の主成分を示す.本実験に用いたDZ合金はCAC703とほぼ同等の組成であった.被熱処理材の寸法は20×60×130(mm)とした.焼入(WQ)は973Kで5400s(1.5h)保持した後水冷した.焼戻し(T)は所定の温度に7200s(2h)保持した後空冷した.鋳放し材はACと略称した.焼戻し温度は773Kと473Kの間で100K間隔とした.硬度はロックウェルBスケール(HRB)で測定した.引張強さ用試験片寸法はJIS規格の4号試験片に近い形状とし,全長は約200(mm),標点部標点部はφ15×90(mm)とした.圧縮強さ用試験片寸法はφ20×40(mm)とした。
Table 1 Chemical composition
of Aluminium bronze,mass %
 CuAlFeNiMn
CAC70378〜858.5〜10.53〜63〜60.1〜0.5
DZalloy77.810.64.23.10.9


3. 実験結果及び考察
Fig.1に熱処理と硬度との関係を示す.鋳放し材の硬度は約95であったが焼入により約10%の上昇が認められた.本実験条件下では焼き戻し温度が573Kの場合に硬度は110となり最高値を示したが,焼戻し温度がこれより上昇あるいは低下しても硬度は低下した.しかしいずれの場合にも鋳放し材と比べて硬度は10%程度以上の上昇が認められた. Fig.2に引張試験結果を示す.CAC703の引張強さは700MPa程度4)とされているが,DZ合金の場合には鋳放し材で約半分の350MPaであった.CAC303の場合には引張強さは700 MPa以上4)とされており,DZ合金の場合にもほぼこの値を満たしている.本実験では引張強さは焼入しただけでは鋳放し材とほぼ同等であったが,焼戻し温度が773Kの場合には鋳放し材に比較して約40%向上した.しかし,焼戻し温度の低下とともに引張強さは低下した.CAC303の場合には約13%の伸びがみられたが,DZ合金の場合には伸びがほとんどみられなかった.CAC303の引張強さ及び伸びはそれぞれ635MPa以上,15%以上で,これらは文献値4)とよく一致していた.焼入材並びに673Kで焼戻した試料はFig.3の写真2,3からわかるように典型的なロックキャンディ破面が現れており,このため773Kで焼戻した試料よりも引張強さが低下した.また,これらの結晶粒の大きさにほとんど差がないことがわかる.Fig.2の写真から鋳放しのCAC303,DZ合金で鋳放し,並びに焼入後773K焼戻しの場合は延性破面であることがわかる.Fig.4に圧縮試験結果を示す.圧縮強さは鋳放し材がもっとも強く比較材のCAC303よりも優れていた.焼入した場合には鋳放し材に比べて圧縮強さが約15%低下した.しかし,焼入後773Kで焼戻処理を施すと圧縮強さは鋳放し材の97%,高力黄銅の場合とほぼ同等の値を示した.473Kで焼戻した場合には焼入材の圧縮強さよりも低い値を示し,焼戻温度の上昇とともに圧縮強さも上昇した。
fig1.gif
fig5.gif
fig3.gif
fig4.gif

4. 結 言

 本実験条件下では,熱処理による硬度の変化は,焼入後573Kで焼戻した場合にはACに比べ硬度が約17%向上した.DZ合金鋳放し材の場合には延性破面であったが,焼入並びに673Kまでの焼き戻しの場合には脆性破面になった.773Kの場合にも鋳放し材と同様な延性破面となり,鋳放し材に比べ硬度は約9%,引張強さは約40%向上した.圧縮強さはAC材が最も高い値を示した。

文 献
1) 山田良之助:改稿材料試験,内田老鶴圃新社(1969)
2) 渡辺修一:改訂 材料試験機,コロナ社(1962)
3) 川田雄一,松浦裕次,水野正夫,宮川松男:材料試験改正版,共立出版社(1997)
4) JISハンドブック「非鉄」,p702〜p703(1998)
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